Interviewインタビュー

Illustrator 鈴木のりたけさん

東海道新幹線60周年ロゴマークとポスターを描いてくださった絵本作家の鈴木のりたけさんに、制作にかけた思いや新幹線にまつわるエピソードをたっぷりお聞きしました。

あらためて新幹線を好きになる後押しに

Q.1

60周年ポスターは、誰もが自分の姿と重ねて懐かしくなる素敵なポスターです。絵に込めた鈴木さんの思いをお聞かせください。

JR東海さんから「新幹線の60年は、乗って支えてくださった乗客ひとりひとりの、皆様の60年だということを伝えたい」と聞き、自分はどうだったかなと振り返ってみたんです。すると、「あのとき俺ギターを持ってデッキに立ってたよな」とか「時代を作ったCMがいくつもあったな」とか、その場で思い出が頭の中をグルグル回りだしました。ああ、新幹線と共に長く歩んできたんだなあと、自分の身に引き寄せて考えることができたんです。
そういう気持ちをポスターを見て思い出せたら、絶対いい方向に物事が動くし、あらためて新幹線を好きになる後押しになる。そう思い、そこを描こうとしました。

Q.2

鈴木さんの描く「人」には、とても温かみが感じられます。「人」を描く際に大切にしていることは何でしょうか?

人を描くのはすごく難しくて、今でも自分では上手に描けているとは思っていないんです。まゆ毛の位置をちょっと変えるだけで嫌がっているような顔になるし、設定一つで老けて見えたりもする。ものすごく気を使うのですが、人のやることや心情の機微を描きたいからがんばって書いています(笑)。
今回の感謝ポスターは逆に、共感を得るためになるべく情報を削いでいます。あまりリアルに描くと表情からいろんなことを読み取ろうとして、“自分事”にならなくなってしまうので。平面的で記号的な絵でなく、ちゃんと共感を得られるような絵にするのは、さじ加減が難しくて慎重に描きました。

Q.3

ポスターのひとりひとりに物語が感じられます。笑顔の人もいれば真剣な表情の人がいたりするのもいいですね。人物を描くときにモデルや参考にする人はいますか?

描くときの造形の参考にする場合はありますが、誰かを参考にするということはないですね。
ポスターの絵の右上の子は、自分の若い時に「俺、これ絵になるかも、かっこいいかも」と思いながらギターを持ってデッキに寄りかかっていた経験がもとになっていますが(笑)。右下に描いた子ども連れのお母さんも、安らかに寝ているようで実は、帰省にうんざりしているのかもしれない。新幹線は人生の転換期や新たな挑戦の場面の時に、そこにあるもの。ハッピーなことばかりではなく、色々な思いを抱いているのが本当だと思います。

"みんなの新幹線"をそこに凝縮

Q.4

アイスやチップスターなど、いろいろな食べ物がちりばめられているのもおもしろいです。富士山の上にあるのは「うなぎパイ」ですか?

はい。新幹線の中って、結構みんな食べるでしょ。見た人が「あ、あれ!」って楽しんでくれるといいなと思って、沿線の名物をちょっとずつ入れ込んでいます。
あと、これは描ききれていないのですが、駅に停まる前に、後ろの席の方からカラカラカラって缶が転がってきたという経験。飲み会の場でこれを言うと、みんな「あるある!」って盛り上がります。そんなふうに共通の話題になることって、なかなかないと思うんです。「学校あるある」といっても、やっぱり学校ごとに特色がありますから。でも新幹線は1本。みんなが共通の体験をできる唯一無二の存在です。それってすごいことだと気付いてほしいなと思いながら描きました。

Q.5

鈴木さんの作品『しごとば』は、細部まですごく丁寧に表現されていて、絵に何が描かれているかを探す楽しみがあります。60周年ポスターにも、そういった発見の楽しみがあるように思います。

60年を一つの絵にするのは非常に難しいので、逆手にとって複雑に描いた面はあります。例えば、デッキに寄りかかって外を見た時の天気がどん曇りだった。そういうことって、よく覚えていたりしませんか?スカーンと晴れた青空ばかりだと、そういうところの人の共感を全部漏らすことになってしまいます。“みんなの新幹線”をそこに凝縮させようと、あらゆるシーンを描くように考えました。

Q.6

ありがとうございます。
最後に、新幹線にまつわる「とっておきのエピソード」があれば教えてください。

大学生の頃は浜松―東京間を利用していたのですが、仕事で名古屋や新大阪へ行くようになり、社会人になってから浜松以西の風景を初めてよく見るようになって。すごく美しい景色ですよね。特に浜名湖大橋を渡って西に行くときに見える、浜名湖の今切口辺りの風景はダイナミックなんです。自分の地元を違う視点から見て、「浜松はいいなあ」とあらためて思えました。今でも通過するたび、そう思いながら見ていますし、新幹線から見る風景によってあらためて地元愛が芽生えました。