Interviewインタビュー

Illustrator 鈴木のりたけさん

東海道新幹線60周年ロゴマークを描いてくださった絵本作家の鈴木のりたけさん。
JR東海の「人を描いた親しみのあるデザインで60年間を支えてきてくれた皆さんに感謝の気持ちを伝えたい」という想いをロゴに表現していただきました。
制作にかけた思いや新幹線にまつわるご自身のエピソードをたっぷりお聞きしたインタビューです。

「60年」の先に見えるもの

Q.1

東海道新幹線60周年のロゴ制作の依頼を受けた時は、どんなお気持ちでしたか?

「来たー!」と思いました(笑)。ただ、当時はかなり忙しくて、慌ただしい中で引き受けてもいいのかすごく迷いました。かといって余裕があればいいものができるのかというと、そういうものでもない気がして。
日本の大動脈を担う大きな鉄道会社と付き合うことに対する緊張も漠然と感じていましたが、JR東海さんから「鈴木さんの世界観で楽しいロゴマークを作ってほしい」と言っていただき、受けることにしました。

Q.2

これまで東海道新幹線の周年で使われたロゴには、「新幹線車両」が主役として描かれてきました。今回、鈴木さんが描かれたのは「人」が主役。どのような思いを込められたのでしょうか?

最初の企画会議の段階で、「ハードの部分で頑張ってきた過去を振り返る節目ではなく、60年間を支えてきてくれた皆さんに感謝の気持ちを伝えたい」と言ってもらっていました。そんな目的が明確でしたので、迷わず描くことができました。

Q.3

特にこだわった点はありますか?

見る人ひとりひとりをフィジカルに巻き込みたくて、実際に自分たちの体でできるように、敬礼している指を輪にした「6」をデザインしました。のぞいた「6」の向こうに新幹線の次の60年が見えている、という感じでしょうか。ぜひ多くの方に、この“60周年ポーズ”をしてもらいたい。

Q.4

ロゴと絵本では、描く際にどのような違いがありましたか?

ロゴには一発でコミュニケーションしなきゃいけない、言い訳の効かない怖さがあります。僕はこれまで、ニッチなところの笑いというか、至る所にある楽しさを足元から拾い上げていくような絵本をずっと描いてきました。だけどロゴは、それではコミュニケーションできないから(笑)。見る人とがっぷり四つで向き合う覚悟が段違いに必要でした。
しかも新幹線の開業60周年記念なんて、いわば国民的なイシュー。今までとは違うものを作るため、より視野を広げ、客観的な視点をアンテナとして使った感じがしています。

Q.5

以前デザイナーだった時の経験が生かされているのでしょうか?

デザイナーとしての8年間の経験というよりも、絵本作家として15年やってきた中での考え方ですね。何か楽しげなものをクリエイターが考えて提示するというより、皆さんの中にある価値観を、フッと水面に浮上させてあげるような。
高所から啓蒙するのではなく、ちょっとした支えになるような“共感の力”が働くことに、わたしは魅力を感じます。この時代にコミュニケーションすることの意味を、ロゴに込められたような気がします。

今までの世界の外側へ

Q.6

初めて新幹線に乗った時の思い出はありますか?

初めて乗ったのがいつだったかは思い出せませんが、人生の転換期として記憶に残っているのは大学入試のために上京した18歳の時です。今までの世界の外側に出発していくような、感慨深いシーンとして今も心に残っています。

Q.7

鈴木さんの絵本は、小さなお子様だけでなく幅広い世代に人気です。絵本作家を目指したきっかけや理由を教えてください。

絵本作家を目指したのは“切り替えポイント”はなく、流れ流れて行き着いた、という感じです(笑)。
大学を卒業してJR東海さんに入社したものの、より手触りのある、自分の手で作り上げるような仕事がしたくなって広告デザイン事務所に移りました。
そこでグラフィックデザイナーをしていたのですが、大きなチームでやる仕事なので、自分の署名が付くような仕事にはなかなか出会えないんですよね。
署名の付く仕事を外にアピールするために、自分の時間にずっと絵を描いていました。一枚の単体の絵だけではなく、連作にしたり、一文を付けてみたり。そのうちにどんどん絵本っぽくなってきたので賞に応募してみたんです。そこで編集者の目に留まり、「あなたの描く絵の世界観はおもしろいから、絵本をやってみませんか」と引っ張ってもらい、専業作家になりました。

Q.8

お仕事をするうえで一番大事にされていることは何でしょうか?

何を大事にすればいいかを探しながらやるのが仕事だと思っています。「これを大事にしよう」って思い過ぎると挑戦できなくなるし、自分の中に殻を作ることにもつながる。何が大事かなんて、時代や自分のライフステージ、気持ちの持ちようによって変わるもので、確固たるものではないと思います。
それよりも、その時の正直な気持ちで、自分の頭でしっかり考えたものに基づいて判断するようにしています。児童書はいわゆるベストセラーが連綿と受け継がれてきたけれど、“教育的価値がある”とされる概念に縛られないように気を付けています。今の子どもたちに受け入れられるためには同時代的に情報収集し、頭を働かせてアウトプットしていかないと。

新幹線は人生に寄り添う鉄道

Q.9

開業60周年を迎えるタイミングにあたり、のりたけさんからメッセージをお願いします。

ロゴの制作を通して、60年間変わらずに人々と共にある東海道新幹線ってすごいなあとあらためて感じています。
移動手段というだけではなく、この60年間、いろんな人のさまざまなライフイベントに寄り添ってきた乗り物。日本の大動脈にそんなハートフルな場所があると考えると、楽しくなってきますよね。乗っていると何か違うものが見えてきたり、もっと乗りたくなってきます。
そうやって自分で意味を足しながら積極的な気持ちで新幹線に乗っていくと、平和な空間がどんどん広がっていくのではないでしょうか。僕の作ったロゴが、そのきっかけの一つになれればいいなと思っています。